ACR/AAHKS(アメリカリウマチ学会/股関節・膝関節学会)から発表された、最新の関節リウマチ薬(生物学的製剤、JAK阻害薬)の休薬ガイドライン2022年版のまとめ
関節リウマチ(RA)患者さんの手術で最も気を付けることは創傷治癒不全と感染症と思います。特に生物学的製剤(Bio)や最近使用されているJAK阻害薬では感染症のリスクが上がりますが、適切な休薬期間については、まだ研究途中であり、手術前の休薬期間も変わってきています。
この記事では2022年にAmecican College of Rheumatology (ACR;アメリカリウマチ学会)とAssociation of Hip and Knee Surgeons (AAHKS; アメリカ股関節・膝関節学会)から出版されたRA患者における人工股関節(THA)、人工膝関節(TKA)の周術期対応ガイドラインの内容について解説します。
・DMARD (Disease modifying anti rheumatic drug; 疾患修飾性抗リウマチ薬)の休薬は不要
・Bioは休薬を検討し、投与間隔+1週の時期に手術が推奨
・JAK阻害薬は休薬を検討し4日目に手術が推奨
ACR/AAHKSガイドライン2022
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(PMID: 35718887
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DOI: 10.1002/acr.24893)
この論文はリウマチ性疾患患者、特に炎症性関節炎患者および全身性エリテマトーデス(SLE)患者が、THAまたはTKAを受ける際の、周術期管理に関する最新のガイドラインです。以前の発表は2017年でしたので5年ぶりの改訂版となります。
リウマチ専門医、整形外科医、感染症専門医からなる委員会を招集し、系統的な文献レビューを行い、臨床的に関連する患者数、介入、比較対象、アウトカム(PICO)の質問に対して現在利用可能な薬剤を含めています。
またGRADE(Grading of RecommendationsAssessment, Development and Evaluation)手法を用いて、エビデンスの質と推奨の強さを評価しています。
このガイドラインでは主に、薬剤をいつ継続し、いつ中止し、いつ再開するか、に関する推奨事項が更新されています。
今回この記事ではRAにおける部分のみ抜粋、提示します。
結果
日本語の要約版
DMARDs
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商品名
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投与間隔
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最終投薬からの手術時期
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メトトレキサート
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リウマトレックス
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週1回
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いつでも可
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サラゾスルファピリジン
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アザルフィジン
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1日1〜2回
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いつでも可
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手術前に控えるべき薬
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Biologics
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インフリキシマブ
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レミケード
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4, 6, 8週間毎
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第5,7,9週目
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アダリムマブ
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ヒュミラ
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2週間毎
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第3週目
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エタネルセプト
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エンブレル
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毎週
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第2週目
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アバタセプト
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オレンシア
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毎月(IV)、毎週(SC9
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第5週;第2週
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セルトリズマブ
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シムジア
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2, 4週間毎
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第3, 5週
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トシリズマブ
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アクテムラ
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毎週、4週間毎
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第2週;第5週
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JAK阻害薬
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トファシチニブ
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ゼルヤンツ
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1日1〜2回
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Day4
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バリシチニブ
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オルミエント
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毎日
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Day4
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ウパダシチニブ
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リンヴォック
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毎日
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Day4
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DMARDs
THAまたはTKAを受ける場合、DMARDsの通常投与を手術まで続けることが条件付きで推奨されています。
こちらは2017年のガイドラインと同様であり、対象薬剤と術後感染症のリスクとの間に関連性は認められておりません。
Bio
THAまたはTKAを受ける場合、すべての生物学的製剤を手術前に差し控え、次の投与予定日の後に手術を計画することが条件付きで推奨されています。
これは投与間隔の終了後に手術を計画することは、薬剤の活性レベルが低くなるためです。
JAK阻害薬
手術の少なくとも3日前からトファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブを差し控えることが推奨されることとなりました。
以前のガイドラインでは、トファシチニブの血清半減期が短いことは知られていましたが、免疫効果の持続時間が長いことを懸念して、手術の7日前からトファシチニブを控えることが推奨されていました。
新しい推奨は、トファシチニブ治療を中断した後に疾患活性が急速に上昇し、免疫抑制効果の急速な逆転を示唆した試験データに基づいており、推奨は手術の3日前からトファシチニブを差し控えるように変更されています。
新しいJAK阻害剤の血清半減期は、トファシチニブのそれとほぼ同じであるため同様の休薬期間で大丈夫なようです。
薬剤の再開時期
創が完全に治癒し、すべての縫合/ステープルが抜け、著しい腫脹、紅斑、または痛みがなく、手術部位感染がない場合に再開すべき(通常術後~14日間)です。
ただし、GRADEでは”非常に質が低い”に分類され、リウマチ以外の疾患を持つ患者が含まれていたり、比較対象群が含まれていなかったりした論文が元となっているため、結果を鵜呑みにせず慎重に適応することが必要です。
まとめ
日本のガイドラインにおいてもJAK阻害薬の使用が推奨されていることから、今後JAK阻害薬を含めた対応については認知しておく必要があります。むやみに休薬期間を長くして、患者さんの痛みを増悪させないように、対応が必要と感じました。