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方形回内筋の温存、修復は橈骨遠位端骨折の観血的整復固定術の際に有用か

 橈骨遠位端骨折は、整形外科で観血的整復と内固定を必要とする最も一般的な上肢骨折の1つです。この10年間で、他の治療法に比べて固定性が良好で、合併症の発生率が低く、良好な機能成績をもたらす掌側プレート固定が普及しました。

 方形回内筋は橈骨遠位端を覆っており、プレート固定の際には切離する必要がありますが、固定語に修復する必要があるかは議論が分かれていました。また方形回内筋を温存してプレート固定をしている方もいると思います。

 この記事では橈骨遠位端骨折のプレート固定における方形回内筋の修復の必要性について解説していきます。

今回の要約

短期的には方形回内筋の修復の利点は示されている。

一方、システマティックレビューでは修復の利点は示されていない。

方形回内筋の機能

 方形回内筋は尺骨掌側から橈側に走行し、橈骨遠位側に付着します。前腕の回内に働き、正中神経支配です。

方形回内筋の修復は利点なし!?

 橈骨遠位端骨折の掌側プレートは骨に密着させる必要があり、この方形回内筋を切離することがスタンダードな術式です。方形回内筋の修復は、回内筋力の回復や遠位橈尺関節の安定性などの利点があると報告されていますが、修復に難渋する例も少なくないと思います。

 方形回内筋の修復を評価した研究はいくつかあり、回内筋力、痛み、DASHスコアに差がないことから、修復するメリットはないと報告されています[1][2]。

短期的には方形回内筋修復の利点あり

 それでは方形回内筋があまりにも可哀想、、ということで、修復に肯定的な報告もあります。

 まず方形回内筋の修復では修復しない場合と比較して、疼痛、可動域、筋力が術後早期に改善することが示されてます[3]。

 さらに、方形回内筋をsplitしたり、sparingすることで筋への損傷を最小限に抑える方法も存在し、方形回内筋の温存手術を受けた37例は、手術時間の短縮、出血の減少、合併症の減少、術後疼痛の減少、早期の機能回復を有意に示しました[4]。ただし、温存のデメリットとして、整復固定が煩雑になることがあります[4]。

ステマティックレビューでは利点なし

 6件の研究をメタアナリシスした2020年のシステマティックレビューでは主要評価項目である両群間のDASH(Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand)スコアは修復群203例と非修復群180例で有意差は認められませんでした。(SMD: 0.43, 95% CI: -0.12 to 0.98, I2 = 85%, p = 0.12 )。また、メタアナリシスでは、修復の有無による握力(SMD: -0.10, 95% CI: -0.53 to 0.33, I2 = 64%, p = 0.64)、回内筋力(SMD: -0.02, 95% CI: -0.82 to 0.78, I2 = 82%, p = 0.96)、術後可動域にも有意差を示しませんでした。

 そのため、橈骨遠位端骨折のプレート固定後、方形回内筋の修復は必要ない可能性があると結論づけられています[2]。

 また遠位等尺関節の安定性にも、方形回内筋の深部は橈骨遠位端の尺側に付着しているので、固定時の剥離程度では遠位橈尺関節が不安定になることはないと報告されています[3]。

まとめ

 システマティックレビューでは修復の利点はないと記載されているものの、私は修復の利点は十分にあると思います。術後疼痛の軽減は患者の満足度の向上、リハビリの促進につながるので、今後患者の主観評価に重点をおいた研究が発表されれば修復の利点を主張することができると思います。今後の研究が楽しみな分野です。 

参考文献

1. Häberle S, Sandmann GH, Deiler S, Kraus TM, Fensky F, Torsiglieri T, Rondak IC, Biberthaler P, Stöckle U, Siebenlist S. Pronator quadratus repair after volar plating of distal radius fractures or not? Results of a prospective randomized trial. Eur J Med Res. 2015 Nov 25;20:93. doi: 10.1186/s40001-015-0187-4. PMID: 26607745; PMCID: PMC4660810.

2. Shi F, Ren L. Is pronator quadratus repair necessary to improve outcomes after volar plate fixation of distal radius fractures? A systematic review and meta-analysis. Orthop Traumatol Surg Res. 2020;106(8):1627-1635. doi:10.1016/j.otsr.2020.06.003

3. REVIEW: ROLE OF PRONATOR QUADRATUS REPAIR IN VOLAR LOCKING PLATE TREATMENT OF DISTAL RADIUS FRACTURES

https://www.brighamhealthonamission.org//09/13/review-role-of-pronator-quadratus-repair-in-volar-locking-plate-treatment-of-distal-radius-fractures/

4. Huang X, Jia Q, Li H, et al. Evaluation of sparing the pronator quadratus for volar plating of distal radius fractures: a retrospective clinical study. BMC Musculoskelet Disord. 2022;23(1):625. Published 2022 Jun 30. doi:10.1186/s12891-022-05576-3

 

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