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関節リウマチにおける手術部位感染リスクと休薬による再燃について

 関節リウマチ患者さんにおける手術で問題となることが①術後感染症、②関節リウマチの再燃、③関節リウマチによる骨破壊、骨質不良があります。

 この記事では術後の感染症、関節リウマチの再燃について解説していきます。

今回の要約

・関節リウマチ患者では手術部位感染のリスクが上昇します。

・生物学的製剤、JAK阻害薬は術前休薬が必要でJAK阻害薬は4日の休薬が推奨されています。

関節リウマチ患者の年齢と人工関節手術

 関節リウマチは50-70歳代で頻度が高く、人工関節置換術は70歳代の方が受けることが最も多いと報告されています。

 

(図は「関節リウマチ診療ガイドライン2020」スライドキットより引用

https://www.ryumachi-jp.com/publish/others/ra_gl2020/

関節リウマチの治療薬について

 関節リウマチの治療薬は大きく3種類があります。

①csDMARDs:古くからある、従来型の合成抗リウマチ薬です。関節リウマチ診療ガイドライン2020年版で第一選択薬であるメトトレキサーやサラゾスルファピリジン、ブシラミン、タクロリムス、イグラチモドが本邦ではよく使用されています。

②bDMARDs:生物学的製剤。TNFα、IL-6などのサイトカイン物質を阻害する抗体を投与することで、治療効果を発揮します。

③tsDMARDs:JAK阻害薬。サイトカインのシグナル伝達に重要であるJAK(Janus kinase)を阻害する経口薬剤です。数種類が上市されており、どのJAK阻害薬でも単剤、MTX併用でbDMARDsと同等またはそれ以上の有効性が報告されています。2019年EULAR recommendation、本邦のガイドライン2020年版でもphase 2での使用が提言されています。

その他としてステロイドや非ステロイド性抗炎症薬があります。

各年代別の治療薬剤の比率は以下の図の通りになっています。70〜80歳台でも20%程度の方がbDMARDsを使用していることがわかります。

関節リウマチにおける手術部位感染リスク

 関節リウマチ患者における手術部位感染のリスクは人工関節置換術(膝、股関節)を対象とした研究が多く、人工膝関節全置換術(TKA)で3倍、人工関節置換術全体で1.6-8倍、変形性関節症を対照(0.86%)として1.26%と高い感染率が報告されています。

 本邦の関節リウマチ診療ガイドライン2020年版においても関節リウマチ患者では手術部位感染、創傷治癒遅延のリスクが報告されています。

感染リスクを上げてしまう薬剤

 関節リウマチの第一選択薬であるメトトレキサートは感染リスクと関連しないと報告されています。しかし、bDMARDsの周術期使用は感染率が高くなると報告されています。9911名のRA患者、10923件手術のコホート研究で感染率はアバタセプト 8.16%、アダリムマブ 6.87%と高率でした。

 一方、tsDMARDsと感染リスクについてはまだ明らかにされていません。JAK阻害薬の使用が手術部位感染のリスクを高める可能性はありますが、これを確認するためにはさらなる研究が必要とされます。

休薬するべき薬剤

 休薬が必要な薬剤はbDMARDs、tsDMARDsです。

 それ以外のメトトレキサート、ステロイド、その他のcsDMARDsについては通常通り使用可能です。

休薬期間

 2017年版のACR/AAHKSガイドラインではtsDMARDsは1週間の休薬が推奨されていましたが、2022年版では4日に短縮されました。詳細は下記リンクをご参照ください。

 

tm-ortho.hatenablog.com

 

手術時休薬での活動性再燃について

 関節リウマチ薬の休薬による痛みの悪化、疲労感の出現はFlare(フレア)と呼ばれます。THAやTKA術後は実に63%もの方にフレアが出現するとされており、手術前の関節リウマチの疾患活動性高値が危険因子です。

 フレアが出現すると、術後リハビリテーションの阻害因子となりますが、創部が治癒していない状態での再開は感染症の懸念もあり、どちらを優先するかはトレードオフの関係にあると思います。患者さんと術前休薬が必要なこと、術前休薬による活動性再燃の可能性を十分に相談しておくことが必要です。

参考文献

1. Lee JK et al, Knee Surg Relat Res. 2012

2. Premkumar A et al, Curr Rheumatol Rep. 2019

3. George MD et al, Ann Intern Med. 2019

4. 関節リウマチ診療ガイドライン2020

5. Bykerk VP et al, J Rheumatol. 2014

6. Goodman SM et al, J Rheumatol. 2018