整形外科学的考察を行うブログ

Daily Orthopedics ~整形外科チャンネル~

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中手骨のみかた −骨折の名称,手術適応まで解説−

・手の外傷は救急外来で最も遭遇する外傷の1つであり,単純レントゲン写真の読み方や治療適応について悩む場合も多いかと思います.

・この記事では特に中手骨骨折の主な名称,手術適応について解説していきます.

【構造】

・中手骨は左右の手根骨の遠位に5本ずつ存在する細長い管状骨で,指節骨より長く橈側から尺側へ向けて第1 - 第5指と対応して存在します.

・第1中手骨が最も短く,最も太い.第2中手骨が最も長く,第3,第4,第5中手骨の順で短くなります.中手骨頭(遠位端)・中手骨底(近位端)・中手骨体(骨幹部)の3つの部分に分けられます.

・中手骨頭は大きな球状で,指節骨を構成する基節骨底と結合します.

・中手骨底は中手骨の近位端で太く,手根骨と結合します.

・中手骨間隙には背側/掌側骨間筋が存在します.

・第1中手骨と大菱形骨で母指手根中手関節,第2−5中手骨と遠位手根骨で手根中手関節を形成します.

・中手骨と基節骨で中手指節関節(MP関節 or MCP関節)を形成します.

【単純X線写真】

手の撮影では骨の重なりを避けるために正面像と斜位像を撮影します.

−正面像

・骨の配列,骨折線の有無,石灰化,骨化の有無を確認します.

読影はABC,すなわちA:アライメント,B:骨(Bone),C:軟骨(Cartilage)に準じて確認していきます.

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-斜位

・側面像では中手骨が重なり読影が難しいため,斜位像で撮影します.f:id:tmlucky8:20211112195127p:plain

【手術適応】

・骨折部位により適応が若干異なります.
−中手骨骨頭骨折
・関節内骨折のため骨片が大きく手術的な整復,保持が可能と判断された際には無腐性壊死になるリスクがあっても手術適応となります.
−中手骨骨幹部骨折
・10°以上の屈曲変形は手術が推奨されます.
・5°の回旋変形でも指屈曲時にoverlapが生じるため回旋変形を認める,もしくは指交差現象があれば手術適応です.
クロスフィンガー
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・短縮は2,3と4,5指で適応が異なります.

・第2,3中手骨は物体を的確に把握するための手の縦,横アーチの軸となるため短縮転位を許容しないた手術推奨です.
・第4,5中手骨は10°以上の角状変形や,3mm以上の短縮では手術が推奨です.

【各骨折の病名】

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−ベネット骨折
・母指の先端部から根本に向かって強い力が加わった際に,母指の中手骨の根本に骨折が起こり,同部の関節でずれ(脱臼)が生じます.・母指CM関節脱臼骨折をベネット骨折と呼びます.・骨折部を徒手整復しても容易に転位するため手術適応です.
−ローランド骨折
・母指中手骨基部でT字型もしくはY字型の骨折をきたしたものです.・関節面骨折のため,転位がある場合は手術が考慮されます.
−ボクサー骨折

・多くがパンチ動作で発生するためボクサー骨折とも呼ばれる,中手骨頭の頚部骨折で環指や小指の中手骨に好発します.

・前述のように転位が大きい際には手術治療が選択される場合もありますが,徒手整復で良好に整復される場合には保存治療も選択されます.