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Daily Orthopedics ~整形外科チャンネル~

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THA(人工股関節全置換術)の作図,術前計画のポイント

 人工股関節全置換術(Total Hip Arthroplasty:THA)は整形外科手術において最も成功した手術の1つと言われており、高い患者満足度、長期成績を達成しています。

 しかし、脱臼や骨折、脚長差など注意するべきことが多い手術の1つでもあります。今回はTHAの手術計画のポイントについて説明していきます。

今回の要約

カップ側の設置は原臼位設置を目指す
・大腿骨側は術前と同等のオフセット、脚長差が少ない機種、ネック長を選択する

画像

単純X線写真:両股関節正面中間位,軸位,ラウエンシュタイン,必要に応じて下肢全長を撮影します。また近年では脊椎骨盤アライメント、骨盤のmoblityの重要性が指摘されており、全脊椎の立位、座位(前屈含む)を撮影することもあります。

CT:(大腿骨の前捻が計測できるように股関節から膝関節まで含める)

MRI大腿骨頭壊死や骨頭軟骨下骨折,関節唇損傷,Bone marrow lesionなど診断などに必要であれば検討します.

確認する項目

・骨盤の傾斜:骨粗鬆症が高度の場合,骨盤が後傾している場合があり注意を要します.

・寛骨臼側

 前方開角,前後径,Center edge角,切除する骨棘の位置と大きさ,ダブルフロアの有無、臼底までの厚み。カップの大きさを計画するために重要です。

・大腿骨側

 大腿骨頚部の頚体角,前捻角,髄腔形態を確認します。

・その他

 脚長差や関節拘縮の有無,術前可動域,Harris hip score,JHEQを測定します。

術前計画

アプローチ

体位:仰臥位で行う前方系アプローチと,側臥位で行うアプローチが存在します.

 前方アプローチ Direct Anterior Approach:AMIS (Anterior minimally invasive apprach)も含みます。

         Antero-Lateral Approach

           Antero-lateral decubitus:OCM approach 

           Antero-lateral supine:  ALS approach

 外側アプローチ Hardinge's approach

         Dall's approach

 後方アプローチ Southern approach

 上方アプローチ SuperPath®

前方系アプローチは筋肉腱を切らないため低侵襲で術後の回復が早く、脱臼率も低いのですが、ラーニングカーブがあり、インプラントfailureや設置位置異常、骨折の対処が難しいこと、長期成績では他アプローチと変わらないことから必要に応じて検討することがよいと考えます。

tm-ortho.hatenablog.com

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カップ

 サイズ 単純X線写真の作図では正常側の骨頭系+6mm程度.日本人女性は48-52mm,男性54-58mm程度が多いとされます.
 設置位置
  -原則原臼設置:正常骨頭中心はtear drop lineより約20mm上方。深さは臼底内板と接する位置が理想です。単純X線写真では涙痕の外側の境界線位置で寛骨臼形成不全の強い症例では内板を打ち抜いてカップ上方の被覆を大きくするmedial protrusio techinique(Dorr 1999)が有用です。
  -高位設置の際には2cm以内が一般的とされます。否定的な意見として外転筋力低下,インピンジによるROM制限があります。許容する意見:Crowe2,3に対しての軽度の高位設置でもセメントレスカップの長期成績は良好かつ、股関節合力を増加させず、筋力低下も許容できる範囲と報告されています。


 カップ設置アライメント:外方開角45°,前方開角10−15°(Muller Int Orthop,2011)
  3つの定義 Operative, Radiographic, Anatomical definition(Murray DW,JBJS Br,1993)→骨盤後傾すると見かけのカップのInclination↑,anteversion↑
  基準面 Operative definition:術中の測定角度,体軸,手術台が基準
      Radiographic    :X線での測定,基準はレントゲン撮影台
      Anatomical     :CTでの測定
   ・臨床,研究の場ではRadiographic表記がわかりやすく,文献にも使用頻度が多いのでRadiographic表記を使用することが推奨されています(日本CAOS研究会)
  Combined anteversion
   前方開角+前捻角=50±10(Nakashima Y, Int Orthop, 2014)
   前方開角+前捻×0.7=37.3 (Widmer JOR 2004)カップの角度はradiographic定義を用いています。ステム前捻に関してはCTでの計測角度が使用されています。
 Cup-CE角 10°以上で最低でも0°を確保することが必要です。十分なCup CE角が確保できない時には、軽度の高位設置とするか、塊状骨移植、KTプレートなどの補助プレートの使用を検討します。

 カップ設置角度(外方開角,前方開角)は40°,20°が一般的ですが、症例によって変更が必要です。カップが立つ(外方開角)が大きくなるとエッジローディングといってポリエチレンの摩耗の懸念があります。前方開角は脱臼予防に至適な角度に設置する必要があります。

ステム側

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(Khanuja HS,et al. 2011より)

エビデンス的には大腿骨側のセメントステムはセメントレスステムよりも痛み、骨折リスクが低く長期成績が高いため推奨されています。しかし現在は世界的にもセメントレスステムが主流になってきていますので、高齢者、頚部骨折以外はセメントレスステムで問題ないと考えます。セメントレスステムの分類はKhanujaらの上図のような分類があり、Khanujaらはショートステムの分類も発表しています。また近年ではFully HAコートのカラー付きセメントレスステムが流行しており、silent hipという術後痛みの軽減が報告されています。

サイズ
 頚部骨切り位置による変化項目
  脚長:調節のポイントとして患側の骨盤が下降している場合,X線等長〜少し短め(5mm)の補正を目標にします。  

  前後捻の調整:骨切り位置が高いと、頚部の骨形態の影響を受けるので通常は前捻が強くな理ます。

 設置アライメント:内外反中間位を目指します。内反アライメントは長期成績には影響しないと報告されていますが、ステム周囲非定型骨折の症例を見ると内反アライメントの症例が多い印象があり、内反設置は外側皮質へのストレスが大きいのではと考えています。
 ネック長:脚長が反対と同じ、オフセットは術前と同じ〜やや大きくなるように設定します。

オフセットとは:THAに関していうと,大腿骨軸から骨頭中心までの距離をいいます。

ハイオフセット.つまりオフセットが長い→骨頭中心から大腿骨軸までの距離が長いとなります.

その結果、メリットは以下のようになります。

・外転筋のレバーアームが長くなり股関節にかかる骨頭合力を減少する。
・骨盤と大腿骨の距離を保つことによる脱臼予防(bone to boneのインピンジが起こりにくい,求心力があがる)。


デメリットとして股関節周囲筋の緊張が高まり違和感を感じる,大転子部の痛みがでることがあります。オフセットの顕著な増加は患者立脚型評価が低いことに関連するという報告もあり、過度なオフセット増加には気を付けるべきと思います。

 

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