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Daily Orthopedics ~整形外科チャンネル~

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脆弱性骨盤骨折 −Rommens分類,出血合併症,ADL,死亡率についてのまとめ− 恥骨上枝骨折の分類であるNakatani分類について

(created by DALL·E)

今回の要約

脆弱性骨盤骨折は増加傾向であり、特に仙骨骨折の診断は難しい場合があります。

・治療方針の決定にはFFP分類や恥骨上枝ではNakatani分類が有用です。

脆弱性骨盤骨折(FFP)とは 

通常骨盤骨折は,若年者の高エネルギー外傷に生じることが多い骨折です.

しかし,近年高齢者が増加するに伴って,骨粗鬆症の方も増加傾向です.

そのため軽微な外傷で骨折する脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折が増加しています.

軽微な外傷で起こる骨盤部の骨折を脆弱性骨盤骨折(Fragility fractures of the pelvic ring:FFPと呼びます.

 

・Nanningaらは近年の寿命延長,高齢化により欧米でも37.5%増加していると報告しています.

(Nanninga G. et al, Age and Ageing. 2014)

 

Rommens分類 

FFPについてはRommensらが分類を提唱し,診断・治療の体系化が進んできています.

 

Rommens分類

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(Rommens P. M. et al, Injury. 2013より著者改変)

 ポイント

・TypeⅠ−Ⅳ,a-cで分類されています.

・TypeⅠは前方要素(恥骨上枝や下枝)のみ

・TypeⅡは転位のない片側の仙骨骨折があるもの,恥骨骨折の有無や仙骨骨折の範囲でa-cに細分類されます.

・TypeⅢは転位のある,片側の後方要素損傷(腸骨,仙腸関節仙骨)があるもの.恥骨骨折は基本的に全例認めます.

・TypeⅣは転位のある,両側の後方要素損傷(腸骨,仙腸関節仙骨)があるもの.

 

治療

保存治療で90%以上の症例は骨癒合するという報告もありますが,疼痛が遷延している症例や転位が進行して骨癒合し難い症例では手術治療も選択することがあります.

FFP治療での注意事項

出血

歩行能力低下

合併症

があります,それぞれについて文献的にまとめていきます.

 

出血

高エネルギー外傷の骨盤骨折では出血性ショックや貧血が進行したり,止血目的に血管内治療,手術を行うことも稀ではありません.

しかしFFPでは低エネルギー外傷のため不安定な初期血行動態はと報告されています.             (Krappinger D et al, J Trauma Acute Care Surg. 2012)

ですが,前述のKrappingerらは2.4%に出血性ショックを認め,骨折型,責任血管についてもまとめています.

3例Pelvic contusion,Accetabular fractureがありますが,それ以外は恥骨骨折単独です.

 

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(Krappinger D et al, J Trauma Acute Care Surg. 2012より著者改変)

 

またDietzらも骨折型と責任血管について記述しており,こちらのreviewでは後方要素損傷は2例のみでそれ以外は恥骨骨折単独です.

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(Dietz S.O et al, Eur J Trauma Emerg Surg. 2014より著者改変)

 

また責任血管について重複も含めると下記のようになりました.

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最多だった内陰部動脈は内腸骨動脈から分岐した後,坐骨棘を周り坐骨,恥骨の裏面を走行しています.

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FFPによる出血リスクとして,加齢による動脈硬化,抗凝固薬,抗血小板薬内服や転位のある腸骨骨折などが報告されていますが,TypeⅠのような恥骨骨折単独でも出血リスクがあることを念頭に治療にあたる必要があると思われます.

 

そのため受傷後4-6時間or24時間後の血液検査をルーチン化してHbが2 g/dl以上低下した際には造影CTやTAEを考慮するべきと提唱されています.

(Krappinger D et al, J Trauma Acute Care Surg. 2012)

 

歩行能力低下

FFPは骨癒合率は高いのですが,痛みのため安静期間が長いと筋力が低下してしまい,自立していた患者の約半数でADLが低下すると報告があります.

(Breuil V et al, Joint Bone Spine. 2016)

しかし恥骨骨折単独のTypeⅠと後方要素損傷を伴うTypeⅡ以降でADL低下が違うのかは疑問点かと思います.

 

Alnaibらは恥骨骨折と仙骨骨折合併群を比較して,ADL低下に骨折型は影響しなかった.

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入院期間は仙骨骨折合併群が多かったと報告しています.

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                    (Alnaib M, et al, J Orthop Traumatol. 2012)

 

またLoggersらも,恥骨骨折と後方骨盤輪骨折を比較して,もともとの歩行能力への復帰は骨折型は関係なかった.

影響する因子は年齢だったと報告しています.

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       (Loggers. S et al, European J of Trauma and Emergency Surgery. 2018)

そのため,シンプルな仙骨骨折合併群ではADLを低下させないようなリハビリを行うことで良好な結果を得ることができると考えられます.

手術治療でのメリットは今後検証していく必要があるでしょう.



合併症

Breuilらは入院中,3ヶ月後,1年後ともに死亡率が上昇すると報告しています.

                     (Breuil V et al, Joint Bone Spine. 2016)

 

前述のLoggersらも死亡率について報告しています.

同様に恥骨骨折と恥骨骨折に後方骨盤輪合併について比較すると,死亡率はそれぞれ20%,35%で合併群がやや多い印象ですが,有意差はありませんでした.

また死亡のリスク因子はもともとのADL,入院中の内科的合併症の有無という記載をしています.

    (Loggers. S et al, European J of Trauma and Emergency Surgery. 2018)

 

つまり老衰,体力低下の終末期の像として,転倒→FFPをきたし,FFPによりさらにADL低下,全身状態が悪化するということが死亡率が高くなる原因かもしれません.

 

恥骨上枝骨折の分類

Nakatani分類

 恥骨上枝骨折ではNakatani分類が提唱されています (Starr AJ, J Orthop Trauma. 2008)。これは骨折線が恥骨上枝のどこにかかるかで分類されており、スクリュー固定の成功率に関係するため治療方針の選択に有用です。

 Nakatani分類Zone1ではReduction lossの割合が高いため、Zone3では腸骨外側壁まで挿入可能な長いスクリュー(6.5mm CCS)を挿入する必要があります。そのため女性では挿入が困難な場合もあります。

(https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4471-6572-9_61)

恥骨逆行性スクリューのpitfall

恥骨軸に平行な平面において髄腔径とスクリュー長を決定。
恥骨結節周囲,恥骨基部,寛骨臼部の3ヶ所で狭くなることに注意します。
男性では6.5mmスクリューが全例挿入可能だったが、女性では1割程度挿入不可能な症例が存在すると報告されています(Suzuki, J Orthop Surg (Hong Kong) 2008)。
エントリー
恥骨結合から2cm外側,恥骨上縁から2cm遠位に作製する.
男性では精索が恥骨結節周囲で恥骨前面を通過しているため注意を要する.損傷すると不妊や射精障害の原因となる
精索は恥骨結節の外側平均0.8mmを通過していたと報告している.(Collinge, J Orthop Trauma. 2015)
恥骨結合と恥骨結節の間を切開し,恥骨体部に沿って軟部組織を剥離して刺入部に到達する方が安全である.
ガイドワイヤーの挿入前に3.5mmまたは4mmドリル先を使用してエントリー孔の開窓を行う.
ガイドワイヤー
ガイドワイヤーは2.4mm径のKwireを先端を切除して曲げておく
ペンチ,ハンマーを使用してガイドワイヤーを骨折部まで慎重にすすめる.
最狭部では中空ドリルを挿入して,Kwireをコントロールする.
先端を曲げたKwireは曲がっていないKwireかガイドワイヤーに替えておく.
スクリューは6.5mm中空スクリューを挿入する.