2021年10月1日
- リバース型人工肩関節全置換術とは
- 1.実施医基準としての経験手術と症例数
- 2.実施医基準としての研修内容
- 3.上腕骨近位部骨折に対する本術式の適応基準
- 4.症例登録と成績の解析,日本整形外科学会への報告
- まとめ
リバース型人工肩関節全置換術とは
1980年代にフランスで腱板機能不全の障害を伴う関節が高度に破壊された症例に対して使用できる人工肩関節として開発され.改良を重ねた結果2014年では術後10年で92%の症例で安定した成績が得られたと報告されています.
日本では2014年の導入前に安全使用のためのガイドラインが策定され厳格な実施医基準が作成されていました.
しかし粉砕型の上腕骨近位端骨折に対する良好な成績から2019年に日本骨折治療学会から実施医基準緩和の要望が提出され,2021年9月本術式の「安全かつ適正な実施」の観点とともに「普及促進」の観点を加え,下記の項目について改定が行われました.
1.実施医基準としての経験手術と症例数
日本整形外科学会専門医であり,かつ以下のA,BもしくはCの要件をみたし,講習会を受講した者
A.腱板断裂手術実施医基準
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新実施医基準
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旧実施医基準
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肩関節手術全般(鎖骨除く)
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40例
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100例
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腱板断裂手術
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30例
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50例
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人工肩関節置換術術者
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10例
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10例
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B.上腕骨近位部骨折実施医基準
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新実施医基準
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旧実施医基準
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肩関節手術全般(鎖骨除く)
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40例
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規定なし
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上腕骨近位部骨折手術
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30例
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規定なし
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人工肩関節置換術術者
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10例
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規定なし
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C.肩周囲の骨・軟部腫瘍手術実施医基準
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骨・軟部腫瘍医の資格を有し,かつ肩周囲の悪性骨・軟部腫瘍広範切除手術の術者としての経験を10例以上要する
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2.実施医基準としての研修内容
1)受講の要件
基本的事項:日本整形外科学会専門医,上記の実施医基準のA,BもしくはCの要件を満たすもの.
2)研修内容
日本整形外科学会が定める「リバース型人工肩関節適正使用基準」の適応や使用実施基準について研修しワークショップを受ける.
3.上腕骨近位部骨折に対する本術式の適応基準
高齢者の3,4パート骨折新鮮例
・高齢者の上腕骨近位端骨折新鮮例で,修復できない腱板広範囲断裂を合併するもの
・骨頭骨折ではHertel分類で骨頭壊死のリスクが高いmetaphysela extension<9mmまたはmedial hingeの消失している症例.ただし結節の温存できない症例に限る.結節の温存できる症例では解剖型人工肩関節置換術が適応される
・耐行性腱板断裂に新鮮骨頭骨折もしくは陥没骨折を合併し,その後の腱板機能不全が予測されるもの.
・3,4パート骨折では,結節の粉砕や骨粗鬆症で結節や外科頚の偽関節の可能性が高い症例.
・将来的に骨折続発症Boilaeu分類のⅢ型およびⅣ型の合併が高いと判断される症例
4.症例登録と成績の解析,日本整形外科学会への報告
調査体制:使用成績調査(PMS)への協力を確保すること
まとめ
実施医基準に上腕骨近位端骨折の項目が追加され,必要手術症例数が前回より減少したことが大きい特徴といえます.
リバース型人工肩関節置換術は良好な成績を得られ,実施に対するハードルが下がった一方で,Failure時の代替治療がないという点でしっかりと講習をうけて安易な手術をしない,厳格な基準で行い,実施医は十分な技術をもつという点が求められると思います.